米国血液学会(ASH)2019  がんの治療パラダイムを変える注目データ ~ オンコロジーコンサルタントがVideo Blogで解説

今回のSynix Oncology Newsletterでは、米国 オーランドで開催された米国血液学会(ASH)2019より、パートナーであるCerner Enviza℠のオンコロジー・コンサルタントが特に注目した臨床試験結果をご紹介します。

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経口azacitidine (CC-486)、AML 寛解導入療法後の移植非適応患者の新たな治療法として期待

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こんにちは、Cerner Enviza℠のKelly Clappです。ASH2019の会場からお伝えします。先ほどLate Breaking Sessionが終わり、第lll相QUAZAR AML-001試験からCC-486の重要なデータが報告されました。azacitidineの経口剤となるCC-486は、寛解導入療法後に再発した55歳以上の高齢AML患者の新たな治療選択となるかもしれません。

第lll相QUAZAR AML-001試験は、寛解導入療法後(地固め療法の有無問わず)に完全寛解(CR/CRi)を達成した55歳以上の初発AML患者を対象としています。また細胞遺伝学的異常が中リスクか高リスクで、造血幹細胞移植(HSCT)不適応の患者となっています。CC-486群238人、プラセボ群234人が登録され、地固め療法を受けた患者はCC-486群で78%、プラセボ群では86%でした。

全生存率(OS)中央値はCC-486群で24.7カ月、プラセボ群で14.8カ月となり約10カ月の延長が認められ、ハザード比は0.69でした。再発生存期間(RFS)でも著しい改善が認められ、CC-486群で10.2カ月、プラセボ群で4.8カ月、ハザード比はい0.65でした。

過去の開発においても維持療法の領域で生存率を改善した薬剤はなく、AML領域における維持療法の役割は疑問視されていました。現在米国では寛解導入後の維持療法として承認されている薬剤はなく、欧州ではRydapt、Cepleneが承認されています。Rydaptに関してはFLT3遺伝子変異陽性患者のみが対象になります。

AMLでは、寛解導入療法である程度高い寛解率が得られますが、多くは再発・難治性となってしまいます。再発時には造血幹細胞移植を実施する事になりますが、高齢者になると移植の適応とならない場合もあります。本日Late Breaking Sessionで発表されたCC-486のデータは、造血幹細胞移植の適応とならない患者の新たな治療選択肢になるか期待が集まります。

再発・難治性多発性骨髄腫に対するBCMA標的のCAR-T 療法 おさえておきたい3つの試験結果

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こんにちは、Cerner Enviza℠のMichael Gaschlerです。ASH2019からお伝えします。CAR-T療法は今年の学会で話題の中心であり、今日も再発・難治性多発性骨髄腫に対するBCMA標的のCAR-T 療法に関する3つ試験の発表がありました。

今朝は、Janssenの JNJ-4528を評価したCARTITIDE-1試験のデータが報告されました。JNJ-4528はFDAからブレークスルーセラピーの指定を受けています。

試験に参加した29人の患者で奏効率は100%、完全奏功(CR)は69%で高い有効性が示されました。MRDが評価できた17人全員でMRD陰性化が起こっていました。投与後6カ月時点で、29人中27人が増悪のない状態でした。グレード3以上の多く認められた血液学的副作用は好中球減少症(93%)と貧血(55%)でした。CAR-T療法全体で懸念される副作用のサイトカイン放出症候群(CRS)は93%の患者で発現しましたが、低いグレードに限られ、グレード1が48%、グレード2が38%、グレード3以上はわずか2人のみでした。CRSの発生時期の中央値は7日目で、発生期間中央値は4日間でした。全グレードで神経毒性(ICANS)を発現したのは3人でした。CAR-T療法によりB細胞リンパ腫患で驚異的に奏功期間が延びている患者がいるが、多発性骨髄腫での奏功期間は短く、多くの場合、1年未満となっています。

Legend biotechは LCAR-B38Mを評価したLEGEND-2試験の追跡調査のデータが示されました。LCAR-B38MはJNJ-4528同一の開発薬で、両社で開発が進められています。

CARTITIDE-1 試験同様、中国で行われているLEGEND-2試験でも有効性と安全性が報告されました。奏効率は88%、CRは74%でした。90%の患者でCRSが発現しましたが、82%はグレード1またはグレード2でした。最も興味深かったのは奏効期間中央値(mDOR)でした。全患者におけるmDORは27か月で、mPFS(無増悪生存期間中央値)は19.9か月でした。この臨床的ベネフィットは完全奏効を得た患者によってもたらされたといえます。CRが得られた患者のmPFSは28.2か月で、CR以外の患者ではわずか3.2か月でした。同様に、全生存期間中央値(mOS)においても、全患者では36か月で、CR以外の患者では7.5か月、CRを得た患者のOSは未到達です。

より大規模な第II相および第III相試験がJanssen/Legendの開発薬で計画されていますが、他のBCMA標的CAR-Tと競合することになるでしょう。

最後はCRB-402試験が第l相試験で進行中のBluebird bioのBB-21217です。この第l相試験のデータでは安全性や適用量の同定に重点を置いていますが、最低用量投与患者群(150万個細胞注入)における有効性データも明らかとなりました。この患者群においては、ほとんど患者で奏効期間は11.1か月でした。ただし、他の患者群でのデータやBluebirdがより高用量(450万個細胞注入)での第ll相試験を進めていく中で変わっていくでしょう。

臨床試験データの解析が進む中で、これらの薬剤の競争はより厳しくなることが予想されます。さらに、BMSのCC-93269のように BCMA標的BiTE抗体とも競合していくでしょう。CC-93269は有効性も期待でき、従来の細胞治療とは異なり、CAR-T 療法の製造や患者への投与の課題を回避できる可能性もあります。引き続き、開発状況やデータの発表に注目していきたいと思います。

CAR-T製造における画期的な技術、「FAST CAR-T技術」

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Sarthak: ASH2019の3日目となりましたが、学会期間中何か気になるトピックはありましたか?
Kelly: そうですね、B細胞リンパ腫についてのセッションは大変興味深く感じました。このセッションでは、再発/難治性のマントル細胞リンパ腫を対象に、KTE-X19(CD19特異的キメラ抗原受容体)を評価した第ll相 ZUMA-2試から発表がありました。KTE-X19を投与した60人のうちORRが93%、CR率が67%という結果が報告されていました。PFSとOSはまだ中央値に到達していませんが、12カ月PFS率61%、12カ月OS率83%でした。有害事象に関しては、サイトカイン放出症候群が91%に認められ、うちグレード3および4であったのは15%でした。また、細胞採取から投与までのプロセスが16日であったことも興味深いものでした。全体を通して再発/難治性のマントル細胞リンパ腫患者にとって希望の高まるデータでした。
Kelly: 注目しているテーマ、講演ありましたか?
Sarthak: そうですね。夕方のセッションでGracellバイオテクノロジー社(中国のバイオテクノロジー企業)が、再発/難治性B細胞ALLを対象にFast Car-Tを評価した第l相 試験データが発表されていました。Gracell社の報告によると、低用量、中用量、高用量に関係なく、投与された20名全員で完全寛解が認められたとの事です。更に印象的だったのは、Fast Car-Tの製造期間が24時間以内であったという点です。会場からは製造技術に関する質問があがりましたが、詳細については発表されませんでした。
Kelly: 今後注目していきたいCar-T療法ですね。

前治療歴のないCLL患者群へ新たな治療選択肢

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Cerner Enviza℠のMeganがオーランドで開催されたASH 2019からお伝えします。
土曜日のASHオープニング・セッションで、acalabrutinibの単剤療法またはGazyvaとの併用療法をGazyva +chlorambucilの併用療法と比較したPhase 3試験データが発表され、本試験により米国において前治療歴のないunfit CLL患者に対する承認となりました。ELEVATE試験の初期報告と直近の承認から分かるように、主要評価項目のPFSは十分な優位差を示しており、acalabrutinib + Gazyva併用療法のハザード比は0.1となっています。これは最近承認されたunfit患者におけるVenclexta+GazyvaまたはImbruvica+Gazyvaの併用療法と比べても高い水準でした。

acalabrutinibは、17p欠損の患者サブグループにおいて、併用療法および単剤療法の両方で、PFS延長を示しました。さらに、OSやORRなどの評価項目に対しても良好な結果を示しており、acalabrutinib + Gazyvaの併用療法と単剤療法の両方で有効な治療選択肢と考えられています。
今回の試験結果から、本治療が新しい標準治療になると思われますが、ここ最近、前治療歴のない患者、特にUnfit患者に対して複数の薬剤で承認とピボタル試験が進行中で、既にGazyva またはGazyva+chlorambucil との併用で3つの薬剤: Venclexta、Imbruvica、そして今回のacalabrutinibは、いずれも臨床試験で良好な結果を示しています。

今後の臨床現場の疑問として、ELEVATE試験の発表後、参加者からは「どの併用療法が最適か?」といった質問が投げかけられました。これは明らかに誰もが一番気になっている質問で、おそらく答えは一つではなく、その選択基準はPFSハザード比だけではないと考えられます。acalabrutinib+ GazyvaはPFSハザード比で優れており、ORRも他よりも若干高い結果でした。また、Venclexta + Gazyvaの併用もこれらの指標で有意義な改善を認め、更に50%近くのCR率を示しています。これはImbruvica (19%)や acalabrutinib(13%)との併用療法で報告された数値よりもはるかに高いものでした。

ImbruvicaのPFSハザード比も0.2と顕著な有意差がある上、17p欠損の状態に関係なく、単剤でfitとunfit患者の標準治療として広く利用されています。よって、非常に有効なデータを持つ薬剤でも、標準治療として切り替わるのは容易ではないと考えられます。
各併用療法の副作用プロファイルは、一般的に許容範囲内のものではありますが、副作用による使用の中止率はVenclextaの併用療法が一番高く16%であり、Imbruvicaとacalabrutinibの併用療法では約10%前後に留まっています。

acalabrutinib+Gazyva及びImbruvica+Gazyvaの併用療法では増悪または有害事象が出るまで継続投与されますが、VenclextaとGazyvaの併用療法では12サイクル固定の投与であることは、患者ベネフィットの一つと言えます。