米国臨床腫瘍学会 (ASCO) 2019 がんの治療パラダイムを変える注目データ ~ オンコロジーコンサルタントがVideo Blogで解説

パートナーであるOracle Life Sciencesのオンコロジー・コンサルタントが特に注目した、米国シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology: ASCO )における今後の治療へのインパクトが大きい7つの臨床試験の解説をご紹介いたします。

  1. KRASG12Cを有する固形がん:肺がんと大腸がんでKRAS阻害剤AMG 510が有効性を示す
  2. HER2陽性乳がん SOPHIA試験:margetuximabがCD16A-158F型患者群において治療ベネフィット2倍
  3. 膀胱がん EV-201試験:enfortumabはチェックポイント阻害剤後の治療オプションとなるか? 注目されるシーケンス使用
  4. がん KEYNOTE-062試験:非劣性データが示唆する今後の治療展望と課題
  5. 膵臓がん POLO試験:PARP阻害剤Lynparzaが膵臓がん治療を変える
  6. 転移性去勢感受性前立腺がん(mCSPC) TITAN試験:Erleada が増悪リスクを大きく改善
  7. 多発性骨髄腫 CASSIOPEIA、ICARIA-MM、COLUMBA試験:CD38阻害剤Darzalex、isatuximabの使用をさらに後押し

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KRASG12Cを有する固形がん:肺がんと大腸がんでKRAS阻害剤AMG 510が有効性を示す

こんにちは、Oracle Life Sciencesのシニア・コンサルタントArnold DuBellです。
数ある米国癌治療学会(ASCO)での発表のうち、未来への希望を生むのはPhase I試験データだったりします。今回のASCO 2019におけるAmgenの化合物、KRAS阻害剤のAMG 510がそうです。

先ず何故注目しているのか簡単に整理すると、KRAS阻害剤の開発は多くの研究者が長年にわたり挑戦し、失敗してきた領域です。KRASの分子構造があまり薬剤の結合を許す足掛かりがないのが要因です。今回お話するAMG 510に関しては、KRAS変異の一つG12Cが新たなシステイン残基を生成、AMG 510の結合を可能とし、KRASを不可逆的に不活性状態にします

KRASG12Cを有する固形がんにおけるAMG 510のPhase I試験が実施されました。耐用性は良好で、因果関係のある重大な有害事象はありませんでした。

AMG 510は特に肺がんに対して期待できそうです。評価可能な多重既治療の患者10名のうち、病勢進行(PD)したのは1名で、他は部分寛解(PR: 50%)か安定(SD)でした。大腸がん患者18名での最良効果はSDで、被験者の2/3がSDに至ったと報告されました。どちらのがんにおいても効果は期待されますが、効果の差がBRAF阻害の例のように肺がんと大腸がんの組織型の違いによるものなのか、まだわからない点があります。今後の研究に期待です。

発表データはとても有望ですが、小規模なPhase Iのデータであることは念頭におく必要があります。また既に、Mirati TherapeuticsなどKRAS阻害剤開発の競合もいます。ですが、今回の発表データは医師が今後このバスケット・トライアルに患者登録をするために他の適応症でも患者さんをスクリーニングし始めることを期待できるもので、承認までの道のりが少しスムーズになるかもしれません。それに、Amgenが化合物AMG 510の特定に至るまでのストラテジーは“undruggable(標的とすることが困難)”なターゲットを阻害する方法を探る多くの研究者の参考となるはずです。

KRASG12Cを有する固形がん:肺がんと大腸がんでKRAS阻害剤AMG 510が有効性を示す

こんにちは、Oracle Life SciencesのKatie Stockstillです。ASCO 2019最終日に発表されたPhase III SOPHIA試験の結果を解説します。

この試験ではPerjetaを含む2レジメン以上の抗HER2療法歴があり、転移性乳がんに対し1~3ラインの治療を受けたHER2陽性転移性乳がんでmargetuximab + 化学療法とHerceptin + 化学療法を評価しています。

Margetuximabは、HER2をターゲットとするモノクローナル抗体です。MacroGenicsはmargetuximabをADCC(抗体依存性細胞傷害)活性を向上し、Herceptin抵抗性の可能性がある特定の遺伝子型をターゲットとしていることから「より良いHerceptin」として位置づけています。このため、Herceptinとの比較試験としたことは理に適っていると言えます。

今回ITT(治療企画)群の解析データで、margetuximabはmPFSをささやかなベネフィットながら、有意に1ヵ月延長したことが発表されました。ただし、158Fアレル(対立遺伝子)を有するCD16A遺伝子型(CD16A-158F型)の患者群においては治療ベネフィットが二倍でした。

ベースラインで測定可能な病変を有する患者ではHerceptin群16%に対しmargetuximab群は全奏功22%でした。未成熟なOSデータの解析が公表されましたが、両群で有意な差はありませんでした。

Margetuximab群では輸液関連反応がより多く見られましたが、安全性プロファイルも両群で似通っています。

Margetuximab + 化学療法の併用でPFSは有意に延長された一方、1ヵ月の延長であったことを踏まえると、転移性乳がん全体に対し臨床的な意義があるのか、それともCD16A遺伝子型にベネフィットが限定されるのか、疑問が残ります。

膀胱がん 膀胱がん EV-201試験:enfortumabはチェックポイント阻害剤後の治療オプションとなるか?  注目されるシーケンス使用

こちらOracle Life SciencesのLen Kusdraです。
ASCO 2019会場からEV-201試験の予備的な解析データをお届けします。本日発表されたのはプラチナ製剤とチェックポイント阻害剤での治療歴を有する局所進行または転移性の膀胱がんに対するenfortumab vedotinを検証したコホート1のデータです。

この試験は完全奏功(CR)12%と部分奏功(PR)32%の全奏効率(ORR)44%を示しました。PFS中央値は5.8ヵ月でOS中央値は11.7ヵ月です。副作用プロファイルも良好で、発生頻度が最も高いGrade 3以上の有害事象は発疹と好中球減少、貧血でした。なお有害事象による治療中断は12%で末梢神経障害を理由とする例が一番多い結果でした。

全体的に今回の発表データはとても期待が持てるもので、再発例におけるチェックポイント阻害剤と比較しても同等か場合によってはそれ以上のものでした。この結果を以て迅速承認される可能性が高く、実際に今年の後半にはenfortumabの承認申請が計画されています。ただし、競合はチェックポイント阻害剤に留まらず、他にも再発膀胱がん市場に参入する分子標的薬があります。例えば最近FGFR2,3変異を対象に承認されたBalversaやsacituzumab govitecanです。分子標的薬が複数参入することで、これらの薬剤をどのようなシーケンスで使うか、FGFR変異陽性の患者に対する最適な治療戦略は何かなど様々な課題が生まれるでしょう。今回enfortumabはあまり薬剤開発がされていないチェックポイント阻害剤での治療後、というセグメントで試験を実施している点が有利に働くと考えられます。チェックポイント阻害剤での治療後の選択肢というアンメット・ニーズを満たすようポジショニングされており、承認されればこのセグメントでの第一剤目になります。

総括するとenfortumabは患者に希望をもたらす、再発膀胱がん治療における重要な前進と言えるでしょう。

胃がん KEYNOTE-062試験:非劣性データが示唆する今後の治療展望と課題

MG: こんにちは。Oracle Life SciencesのMichael Gaschlerです。
DW:  Oracle Life SciencesのDebbie Warnerです。

DW:   私たちは今シカゴで開催されているASCO 2019会場にいます。今日は二人で胃がんの1stラインにおけるキイトルーダの有効性を評価したKEYNOTE-062試験について解説します。この試験では色々なことが起きていましたね。Michael、概要を説明してくれますか?

MG: ええ。まず、この試験は3群に分けられました。現在の標準治療である化学療法を投与した患者群、次にキイトルーダ単剤群、そしてキイトルーダ+化学療法の併用群です。今回の試験の目的は、いずれかのキイトルーダ投与群が化学療法群に比べ優位なOSを示せるか検証することでした。結果としては、キイトルーダ+化学療法併用群では化学療法群と比べてOSに優位性はなかったものの、キイトルーダ単剤群では化学療法群に対して非劣勢が示されました。

DW: なるほど。市場性を考える上でいくつかの影響が考えられますね。まず言うまでもなく、この結果を医師たちがキイトルーダを処方する十分な根拠とみなすか、という疑問が浮かびます。

MG: それは大きな問題ですが、最終的には市場の特性で決まるでしょう。例えば、キイトルーダ単剤での治療からベネフィットを受ける患者も一部います。キイトルーダは化学療法に比べ忍容性が高いので、全身化学療法の毒性に耐えられない高齢患者や全身状態のよくない患者においてはキイトルーダ単剤での治療の方が望ましいかもしれません。また一方で、PD-L1の発現率がとても高い患者に対しては、この試験でCPS(Combined Positive Score*)10以上の患者では化学療法群と比べ、キイトルーダ単剤群はOS6.5ヵ月の延長を見せています。

* CPS計算式 = PD-L1陽性細胞数(腫瘍細胞、リンパ球及びマクロファージ)/ 総腫瘍細胞数 x 100

DW: キイトルーダ単剤療法の恩恵を受けるサブグループもいるということですね。しかし、今回の試験はそのようなサブグループに対する統計的検出力は不足していると理解しています。

MG: その通りです。Merckがキイトルーダ単剤療法のOSが化学療法によりも統計学的に有意であることを示したいのであれば、また別の臨床試験を実施する必要があるでしょう。

DW: ということは、これはNCCNガイドライン推奨の面でよくないお知らせですね。現在、胃がんの3rdラインでキイトルーダの推奨度を2Aにしていますが、この試験結果をもとに1stラインでの使用を推奨するとは考えにくいです。

MG: 今回のデータでは無理でしょう。さらに言うと、Merckは胃がん3rdラインでの使用についても危機感を持つべきかもしれません。胃がん3rdラインに対する承認は検証データ待ちです。今回の試験で検証データを出すことを狙っていたかもしれません。ですが、今日発表されたデータを見る限り、現在のFDA承認を維持するためには別の試験に頼る必要があるでしょう。

DW: そうでうね。ありがとうございました。

胃がん膵臓がん POLO試験:PARP阻害剤Lynparzaが膵臓がん治療を変える

Phase III POLO試験でLynparzaが生殖細胞系BRCA変異陽性の膵臓がんに対するプラチナ製剤での一次治療後の維持療法として主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)の改善を達成したと今年2月に発表されました。

そして本日午後、BRCA変異陽性の膵臓がん治療を大きく変えると予測されるこの試験結果が実際にどれほどのベネフィットを見せたのか判明しました。POLO試験はバイオマーカー(gBRCA: 生殖細胞系BRCA)を特定したことと、維持療法を治療オプションに加えたことは膵臓がん患者にとって類を見ない朗報です。発表されたPFS(中央値)はLynparza投与群が7.4か月を達成したのに対しプラセボ投与群は3.8か月で、ハザード比も目覚ましい 0.53という結果でした。全生存期間(OS)の中間解析では、OSはPFSと同等の改善が見込めない可能性が示されましたが、これは他の維持療法の試験と似た傾向です。

Lynparzaの忍容性は良好でした。

この結果が膵臓がん治療にとって画期的であるのは間違いありませんが、恩恵を受けるのは膵臓がんの7%ほどと言われているgBRCA変異陽性の患者に限られる点は留意すべきです。今回の臨床試験で被験者154名を登録するために3,000名以上をスクリーニングしたことからも、この患者群の希少性が窺えます。

それでもやはり、長年有効な治療のなかった膵臓がんにおいてはどのサブセットが対象であっても効果的な薬剤の出現は喜ばしく、治療を大きく変えるものです。また患者に対し、蓄積性の末梢神経障害を引き起こすFOLFIRINOX等の細胞毒性が強いプラチナ製剤レジメンからより毒性の低いレジメンへの切り替えでQOL改善のベネフィットをもたらす可能性があります。

ただし、Lynparzaは進行まで投与継続する必要があるため、治療を行う際には医師と患者の双方が治療コストと治療ベネフィットの持続期間を十分に検討する必要があります。

転移性去勢感受性前立腺がん(mCSPC) TITAN試験:Erleada が増悪リスクを大きく改善

こんにちは、Oracle Life SciencesのMegan Eppersonです。
ASCO 2019初日に発表されたPhase III TITAN試験の中間解析データをお伝えします。

この試験では第三世代アンドロゲン受容体阻害剤のErleadaとプラセボをアンドロゲン除去療法中の転移性去勢感受性前立腺がんの1stライン治療として評価しています。

TITAN試験では、Erleada投与群で放射線学的な解析による増悪のリスクが52%減少(ハザード比0.48)したと発表されました。この治療ベネフィットは高腫瘍量またはドセタキセルでの治療歴がある患者約10%を含むサブグループ間でも一貫性がありました。
Erleada群では24ヵ月OS(全生存期間)がプラセボ群とで82%対74%と、死亡リスクも減少しました。
そして忍容性も高い結果でした。

総括すると、TITAN試験の中間解析データからアンドロゲン除去療法+Erleadaはサブタイプ関係なく転移性去勢感受性前立腺がんに対し有意なベネフィットをもたらすことを示しています。

Erleadaはこの試験結果を基に承認を得るでしょうが、米国の特許権が近々満了するかもしれない、既に同適応症で承認を得ている自社品Zytigaを含む競合品との差別化を図る必要があります。

転移性去勢感受性の患者に対する治療強度を上げることに集中しているこの領域で、他剤との差別化や最適な薬剤の選択といった点が今後の課題として残ります。

転移性去勢感受性前立腺がん(mCSPC) TITAN試験:Erleada が増悪リスクを大きく改善

こんにちは、Oracle Life SciencesのKelly Clappです。
本日はASCO 2019の3日目、多発性骨髄腫治療の進歩を示すエキサイティングなセッションがありました。

CD38阻害剤のDarzalexは多発性骨髄腫に対する有効な治療オプションであることが示され、現在移植適合群に適応拡大を狙っています。

そして今日発表されたPhase III CASSIOPEIA試験は期待を裏切りませんでした。Darzalex + VTDを評価したこの試験では主要評価項目のstringent complete response (sCR)を見事なハザード比で達成しました。

VTDが標準治療の欧州ではDarzalex併用が素早く浸透する可能性が明らかに高いです。米国はRVDが標準治療なので欧州ほど早くDarzalex + VTDが浸透せず、医師たちはDarzalex + RVDを評価するMMY3019試験の結果を待つと考えられます。

再発/難治性多発性骨髄腫においては期待を集めていたisatuximab + PomDexを評価したPhase III ICARIA-MM試験のデータ発表があり、主要評価項目のPFS達成と増悪または死亡リスクの40%減少が示されました。

どちらのCD38阻害剤とも再発/難治性多発性骨髄腫で有効性を示しているので今後シーケンスやCD38ベースの治療ベネフィットに関するスタディデータが出てくるまでは、実臨床での各薬剤の使われ方はディテールに左右されるでしょう。例えば、患者の治療歴やCOPDなどの合併症の有無、投与時間、併用薬の選択などの点で使い方が差別化されると考えられます。

現時点では、ほかにPhase III COLUMBA試験で再発/難治性でDarzalexの皮下投与が静脈注射に対し非劣勢を示した結果が本日発表されました。試験結果が再発/難治性群で有用な選択肢であることを示していますし、静脈注射7時間が皮下注射5分に短縮されることでDarzalexはさらに強大な競合として立ちふさがるでしょう。総括すると、本日発表されたこれらの臨床試験結果は多発性骨髄腫治療に対するCD38阻害剤の使用をさらに後押しするものでした。