治療困難ながん種における開発の兆し ~ 米国癌学会(AACR) 2019より サイニクス オンコロジー チームが注目するトピックをご紹介

今回のOncology Newsletterでは米国癌学会(AACR)から現地の様子とサイニクスが注目したトピックスをお届けいたします。
また、毎年ご好評をいただいている『キャンサー・インサイト セミナー』を2019年も開催いたします。

治療困難ながん種における開発の兆し

今回AACRに初参加し、膵臓がんを筆頭として小細胞肺がんやトリプルネガティブ乳がん、膠芽腫(Glioblastoma:GBM)や神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine Tumor:NET)など、これまで新薬開発がなかなか成功してこなかったがん種における新たな治療パスウェイやCAR-Tを含めた広義のがん免疫療法への反応をどうやって誘発するかといった研究が盛んに行われていることが強く印象に残っています。特に膵臓がんにおいては多種多様な作用機序を持つ薬剤の開発が進んでおり、なかでもApexigen Inc.の抗CD40抗体APX005Mの発表はプレナリー・セッションで取り上げられるなど大きな注目を浴びていました(APX005MはCD40と結合し樹状細胞や単球、B細胞などの抗原提示細胞を活性化することで抗腫瘍免疫応答を誘発:免疫抑制を解除する作用機序を持つ 。現在膵臓がんの他にメラノーマや非小細胞肺がんにおいても開発が進んでいる)。

複雑ながん免疫微小環境や脳血液関門(Blood Brain Barrier: BBB)など、様々な問題が障壁として立ちはだかってきたがん種においても有効な治療薬開発の光が差し込みつつあることを受け、今後のがん治療の展望により一層注目していきたいと思います。 (HK)

AACR 2019で発表された膵臓がんに関する臨床試験(一部)

薬剤名(開発番号) /医療機器名開発フェーズ作用機序抄録番号試験番号
APX005M第Ib相CD40アゴニストCT004NCT02482168
CBP501第Ib相カルモジュリンモジュレーターCT228NCT03113188
adavosertib (AZD1775)第I/II相Wee1阻害剤CT235NCT02037230
MBG453 +/- spartalizumab第I/II相TIM-3阻害剤 +/- PD-1阻害剤CT183NCT02608268
rucaparib第II相PARP阻害剤CT234NCT03140670
GVAX第II相がんワクチンCT164NCT03161379
nivolumab第II相PD-1阻害剤CT152NCT02754726
NovoTTF-100L(P)第III相医療機器CT176NCT03377491
PANOVA-3

新テクノロジーを用いた薬剤への期待

AACRにて、bivalent CD19/CD22 CAR-TやNew Drug Delivery Systemなど新テクノロジーによる薬剤開発など興味深い研究結果が複数発表されました。その中で、治療開発が進まないrare cancerや治療が困難ながん領域などアンメットニーズを対象とした腫瘍溶解ウィルスを用いた臨床試験もフォーカスされていました。サンプル数は少なく早期フェーズではありますが良好な効果が得られており、今後の開発動向が注目されました。

標準治療非適合食道がん:「テロメライシン」

標準治療がいまだ手術や化学療法である食道がん。高齢者や健康に問題がある場合、標準治療を受けられません。標準治療非適合の食道がん患者13人を対象に腫瘍溶解ウィルス「テロメライシン」と放射線を併用した第I相臨床試験を岡山大学の藤原教授らは実施。テロメライシンは、アデノウイルスにテロメラーゼ(酵素のプロモーター)遺伝子を組込んだウィルス製剤で、がん細胞中で特異的に増殖してがん細胞を破壊します。Objective response rateが85%(CR:8人、PR:3人)、重篤な副作用もなし。本剤は4月8日に「切除不能、化学療法不耐容または抵抗性の局所進行食道がん」を適応症とし「先駆け審査指定制度」の対象品目にも指定されました。世界に先駆けての日本での実用化に向けて、低襲性で安全な治療法として今後期待がもたれます。

がんトリプルネガティブ(TNBC):「Talimogene laherparepvec (TVEC)」

治療が難しいTNBC。BRCA(gBRCA)変異陽性の再発乳がん患者に対してPARP阻害剤が承認されていますが、いまだアンメットニーズが高い治療領域。Soliman et al.,がTNBC患者9人(ステージ2が6人、ステージ3が3人)を対象としTVECと術前化学療法を併用した第I相臨床試験を実施。pCRは9人中5人(55%)で得られ(4人[45%]に遺残病変)、術前化学療法単独療法(予測値30%)と比べ上回り、現在第II相試験にて開発中。TVECは遺伝子組換え単純ヘルペスウイルスI型で腫瘍細胞を特異的に溶解し、腫瘍関連抗原を放出し、顆粒球マクロファージ刺激因子(GM-CSF)を産生して樹状細胞を活性化し、T細胞の腫瘍内浸潤を刺激します(TILs)。TNBCにおけるTILsは、術前化学療法による奏効性の向上との関連が他にも報告されています。今後の開発動向をフォローしていきたいと思います。(MN)

最近のがん種別薬剤開発動向
腫瘍溶解ウィルスの開発動向(グローバル

薬剤別臨床試験数ランキング

【編集後記】

今回の米国癌学会も連日の発表から今後のがん治療、オンコロジー市場におけるパラダイムシフトの兆しを感じました。6月の米国癌治療学会(ASCO)でもまたがん治療を大きく変えるデータが発表されるものと期待が募ります。(HK)