免疫チェックポイント阻害剤 併用療法の現状と課題、希少がんの疫学と診療ほか~第14回 日本臨床腫瘍学会より~

【今回のトピックス】

第14回 日本臨床腫瘍学会
「Breaking Through the Barriers: Optimizing Outcomes by Integration and Interaction」

7月28日(木)から30日(土)に神戸で開催された第14回日本臨床腫瘍学会学術集会より、弊社Oncology担当が注目したトピックをお届けします。
今回は神戸にて開催した日本臨床腫瘍学会は、梅雨明け後の快晴に恵まれました。

今年のテーマは「Breaking Through the Barriers: Optimizing Outcomes by Integration and Interaction」。
開会式では、日本臨床腫瘍学会学術集会 会長の南博信教授より「臓器別に進んできたがん研究は、最適なアウトカムを目指すために、その枠を越え柔軟な研究体制を構築していく事が重要である」との挨拶がありました。

引き続き、産学官の連携を呼びかけるとともに、Precision Medicineの確立に向けた臨床研究や今年のASCOでも注目を集めたSCRUM-Japanをはじめとする次世代遺伝子シーケンサーによる解析結果、チーム医療に関するセッションが数多くなされました。約240の発表、約770のポスター展示が行われた本学会 より、参加した弊社Oncology担当者が注目したトピックをお送りします。

TOPICS

  • 【JSMO初発表】 切除不能進行・再発胃がん2次治療におけるNab-PTXとPTX比較試験
  • 免疫チェックポイント阻害剤 併用療法の現状と課題
  • 腫瘍溶解性ウィルスの開発動向
  • 希少がんの疫学と診療
  • SCRUM-Japan解析データを用いた臨床試験とその成果
  • 【JSMO初】 切除不能進行・再発胃がん2次治療におけるNab-パクリタキセルとパクリタキセル比較試験

ABSOLUTE試験 (第Ⅲ相試験)は、フッ化ピリミジン製剤抵抗性の切除不能進行・再発胃がん患者741人を対象とした、nab-パクリタキセル(260mg/㎡の3週毎投与)群、nab-パクリタキセル (100mg/㎡の毎週投与)群、及びパクリタキセル (80mg/㎡の毎週投与)群の非劣性試験で、第Ⅱ相試験では奏効率27.8%を達成している。今回の発表は、結果として、パクリタキセル(毎週投与)群に対して、nab-パクリタキセル (毎週投与)群では非劣性が示されたが、nab-パクリタキセル (3週毎投与)群の非劣性は示されない結果となっている。有害事象も、nab-パクリタキセル(3週毎投与)群で高く発現しており、nab-パクリタキセル (3週毎投与)群、及びパクリタキセル (毎週投与)群は同様の発現率であった。

nab-PTX群
(3週毎投与) nab-PTX群
(毎週投与) PTX群
(毎週投与)
生存期間中央値 (MST) 10.3ヶ月 11.1ヶ月 10.9ヶ月
治療継続期間 (mTTF) 3.3ヶ月 4.5ヶ月 3.7ヶ月
PFS中央値 (mPFS) 3.8ヶ月 5.3ヶ月 3.8ヶ月
奏効率 (ORR) 25.3% 32.7% 24.3%

  • 免疫チェックポイント阻害剤 シーケンス投与によるOSの剥離

CheckMate064試験(第Ⅱ相試験)は、進行性悪性黒色腫を対象にnivolumabとipilimumabにおけるシーケンス投与を比較した臨床試験である。1年OS割合は、nivolumab → ipilimumabが76%、ipilimumab → nivolumabが54%と大きな剥離が確認されている。nivolumabとipilimumab併用療法はそれぞれの単剤療法と比較しOSの延長が示された事はASCO2016でも取り上げられているが、今回のJSMOではどの様な要因が関与しているか、Weber氏から話があった。「抑制性T細胞とエフェクター細胞間のシグナル伝達の調整経路がipilimumabとnivolumabとでは異なる可能性がある」。今後開発が活発となる免疫チェックポイント阻害剤において、抑制性T細胞へ働きかける際のシーケンスの考慮の重要性ついての講演であった。

  • 腫瘍溶解性ウィルスの開発動向

引き続き、数多くのがん種を横断して開発されている抗PD-1/ 抗PD-L1抗体薬に関する発表が多いなか、他の作用機序を持つ薬剤にもスポットライトがあてられていた。腫瘍溶解性ウィルスのセッションでは、米国でメラノーマで承認されたT-VEC(talimogene laherparepvec/ Imlygic, Amgen)と頭頸部がんにおいて第Ⅱ相臨床試験が進められている単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の弱毒化株HF10(タカラバイオ株式会社)の2剤が注目されていた。質疑応答でも、血液脳関門を超えることが期待されるコメントもあり、最適な投与インターバルの探索や併用が今後の課題としては挙げられ、引き続き注目される薬剤クラスである。

  • 希少がんの疫学と診療

学会初日に、昨年のテーマと今年のテーマを兼ねる「希少がんの診療体制及びエビデンス創出に向けた取り組み」が開催された。その中で近年注目されている神経内分泌腫瘍(NET)の発表では、日本と米国における発生数と診断時の進行度等を比較し、消化器系NETにおいて診断時の進行度と一部のサブセグメントの分布に日米で差が見受けられるとの事。ちょうど前日に日本でのlanreotide(ソマチュリン, 帝人ファーマ株式会社)追加適応申請のニュースもあり、今後の疫学研究の展開と治療動向への注目が続く領域となるだろう。サルコーマにおいてはJapan Sarcoma Genome Consortiumにより遺伝子解析が進んでおり、将来的には30の組織型の解析を予定、更に治療標的バイオマーカーについてもデータ解析中との発表がなされた。希少がんにおいても、今後は治療開発において重要な解析データが集約・公表されることに期待している。

  • SCRUM-Japan解析データを用いた臨床試験とその成果

2015年2月に立ち上げられたSCRUM-Japanは15社を超える製薬企業が参加し、2016年6月時点で、216施設にて登録された2,922例のうち2,354例の解析が完了した。新薬の開発を目的としたゲノムスクリーニングとしては世界最大規模だという。今年のJSMOでは登録実績に続き、これらのデータを活用し実施されたLURET試験など複数の臨床報告があった。LURET試験では、LC-SCRUM-Japanにより、RET融合遺伝子陽性の患者19人が登録され、奏効率は53%となっている。SCRUM-Japanに参加する医療機関の現場のモチベーションの高さ、積極的な姿勢も感じられた。2017年3月に第1期が終了するが、今後はアジア諸国とのデータ統合、また、現在は治験対象患者選定に使用されているが、日常診療に導入される事となれば保険診療下での運営が重要な課題となってくる。

■ 編集後記 ■

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