第80回日本血液学会学術集会が2018年10月12日~14日大阪で開催されました。記念すべき80回目のテーマは”Progress of the Japanese Society of Hematology”となり、日本における血液学の歴史についての特別パネル展が設けられていました。今回のSynix Oncology Newsletterでは、参加した弊社スタッフの注目トピックをお届けします。
- まもなく始まる日本でのCAR-T療法
- 動き出したAML治療
- ALLの治療成績向上に向けて / TKI~ADC そして、二重特異性抗体製剤の登場
まもなく始まる日本でのCAR-T療法
欧米では既にCD19を標的としたCAR-T療法、Kymriah (tisagenlecleucel)とYescarta (axicabtagene ciloleucel)の2剤が承認され、 Kymriahは日本でも4月に承認申請が行われています。「再生医療新法」、「薬事法改正」の法整備により、日本でも今後ますますがんに対する細胞療法の研究開発が活発になるのではないでしょうか。今回の日本血液学会学術集会では、CAR-T療法への期待と今後の課題について多く議論されていました。
初回CAR-T療法の奏効率の向上、再発・難治性群への治療オプション
高い奏効率が期待されるCD19を標的としたCAR-T療法ですが、治療後に一部の患者群ではCD19発現が消失するケースが確認されているようです。この様な再発・難治性患者群に対してはCD19を標的としたCAR-T療法では効果が期待できない為、CD19以外のCD20、CD22、BCMA等を標的としたCAR-T療法の開発が注目されます。また初回CAR-T療法の奏効率を改善する試みもすでに早期Phaseで開発が進行しているようです。CD19に加えCD20、CD22など白血病、骨髄腫、リンパ腫特有のマーカーを組み合わせたDual-Targeted CAR-T療法です。今後早期ラインにおけるCD19標的としたCAR-T療法の使用、再発・難治性群への治療オプションについて注目していきたいと思います。
米国におけるCAR-T療法の開発動向 (がん種別 / 標的別)
Data Source : CancerLandscape (2018年10月現在) 開発上位一部
‘off-the-shelf’ 「他家」CAR-T療法への期待
現状のCAR-T療法は患者自身の「自家」細胞から製造する為、スクリーニングから投与までに2~3ヶ月の時間を有します。また十分な細胞が採取できない、個体差及び製造工程で必要となる細胞数まで製造が出来ないケースがある様です。急性、悪性度の高いがん領域で待機時間は大きな課題となります。早期ラインでのCAR-T療法の実現に向け、日本国内での製造、自動化による安定した製造ラインの確立、「自家」CAR-T療法の有効性・安全性が確立された後には「他家」での製造技術確立の需要が高まりそうです。高額な医療としても知られているCAR-T療法ですが、「他家」であればより安価で、汎用性が高いCAR-T療法が実現できるのではないでしょうか。
日本では現在Kymriahが承認申請中となり、厚生労働省は現行の薬価算定方式で対応すると薬価算定における考えを示しています。CAR-T療法、免疫チェックポイント阻害薬等をはじめとする高額薬剤は、医療保険財政の観点からも注目していきたいと思います。
動き出したAML治療
27年ぶりの新薬となるFLT3阻害剤Rydapt (midostaurin)が米国で2017年4月に米国で承認され、長くAML治療の標準治療であった大量化学療法に新たな治療選択がもたらされました。承認半年後に実施した弊社市場調査(Treatment Architecture United States 2017 – AML)は、Fit Patient群に対する寛解導入療法で10%弱のシェアを獲得しています。そして日本でも先月、初のFLT3阻害剤XOSPATA (Gilteritinib)が承認されました。
更なる分子標的薬 「IDH阻害薬」、「Bcl-2阻害薬」の登場と遺伝子解析スクリーニングシステム
IDH変異にはIDH1とIDH2があり、AML患者の約30%で発現が確認されているFLT3遺伝子変異と比べると低いものの、IDH1は約8%、IDH2は約12%の患者さんで発現していると言われています。米国ではIdhifa (enasidenib)とTibsovo (ivosidenib)の2剤が本年承認されています。 またAzacitidineとの併用で開発が進む、Bcl-2阻害剤 Venetoclaxの試験結果についても触れられていました。この2剤は既存の薬剤とは作用機序が異なり、日本でも新たな作用機序、併用療法選択として注目されていました。
そして10月12日(金曜日)のPresidential Symposiumでは、Dr. Hartmut Dohnerの講演にて、ゲノム異常に応じた個別化医療のシステムを運用ていることが紹介されました。初発または再発AMLと診断された患者が登録され、72時間以内に遺伝子解析し、至適治療を推薦するシステムとなります。今後多くの分子標的薬の登場を実感させる講演でした。
高齢AML患者への治療選択に希望
弊社市場調査 (Treatment Architecture Japan 2017 – AML)では、Unfit群における1次治療の無治療割合は36%、Fit群の3%と比較すると非常に高い結果となっています。後期ラインでは標準治療は確立されておらず、治験参加率も高く、Unfit群はアンメットメディカルニーズの高い領域となっています。今回の日本血液学会学術集会では、新規分子標的薬だけでなく、現在の標準治療である「7+3療法」の新たな臨床応用として、ダウノルビシンとシタラビンの2剤を抗腫瘍効果が最も高くなる割合でリポソーム化したVyxeosにも注目が集まっていました。本剤は北米で行われたPhase IIIにおいてOSで統計的優位差を示し、承認を得ています。Bcl-2阻害薬Venetoclaxも高齢AML患者を対象群として試験が実施されています。今後の日本においても高齢者AMLの標準療法を書き換える可能性が示唆されていました。
FLT3阻害薬、IDH阻害薬、Bcl-2阻害薬などの新規メカニズムの開発は、長い沈黙状態にあったAMLの治療パラダイムを変える大きな動きになりそうです。