激変する乳がん市場 ~ 第30回日本乳癌学会学術総会より~

第30回日本乳癌学会学術総会が6月30日から3日間にわたり開催されました。今年のテーマは「次世代に繋ぐ乳癌診療 ~ それぞれの役割 ~」。AI等の最先端の技術が今後どのように臨床現場を変えていくか、また新規薬剤開発に関する多くの発表がありました。今回のSynix Oncology Newsletterでは、参加した弊社サイニクス オンコロジー・ビジネスユニットチームのスタッフが注目するトピックをお届けします。 

HR陽性乳がんにおける個別化治療 

CDK4/6阻害剤の承認以降、HR陽性乳がんの治療は大きく変化しました。各国におけるCDK4/6阻害剤の使用状況は異なるものの、日本の乳癌診療ガイドラインにおいてもCDK4/6阻害剤の使用が強く推奨され、ホルモン療法との併用で今日の1stラインの標準治療となっています。

HR陽性乳がん領域におけるCDK4/6阻害剤の使用状況
[Data Source] CancerMPact / キャンサーインパクト(2021年11月調査)

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そして2021年12月には、CDK4/6阻害剤アベマシクリブが、再発高リスクの早期乳がんの術後療法で承認され、より早期での使用が可能になっています。第Ⅲ相monarchE試験では、アベマシクリブの2年間投与と標準的な内分泌療法の併用療法が生存期間(iDFS)を有意に延長する事が報告されています。早期乳がんにおける化学療法上乗せの有効性については、多くのディスカッションがされる中、新しい治療の選択肢として、今後の早期乳癌におけるCDK4/6阻害剤の役割が注目されます。現在HR陽性乳がんの領域では、CDK4/6阻害剤を始め多くの分子標的薬の開発が進行しています。

HR陽性乳がんにおける新規薬剤の開発動向
[Data Source] CancerMPact / キャンサーインパクト(2022年7月時点)

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HR陽性乳がん1stラインの標準治療が変わる中、CDK4/6阻害剤難治性におけるアンメットメディカルニーズにも注目が集まっていました。HR陽性乳がんで内分泌療法とCDK4/6阻害剤で治療後に増悪した患者群にて、CDK4/6阻害剤ribociclibを評価する第Ⅱ相MAINTAIN試験では、無増悪生存期間(PFS)が延長できる可能性がある事が報告されています。現在CDK4/6阻害剤治療後の最適なシーケンス使用は確立されていませんが、市場調査(CancerMPact – Treatment Architecture Japan – Breast 2021)では、CDK4/6阻害剤難治性に対してCDK4/6阻害剤のシーケンス使用が確認されています。

転移性HR陽性乳がん CDK4/6阻害剤のシーケンス使用 (日本) 
[Data Source] CancerMPact / キャンサーインパクト(2021年11月調査)

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トリプルネガティブ乳がん領域における免疫チェックポイント阻害剤の現在と未来

トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、従来の化学療法が主な治療選択肢となっており、他のサブタイプと比較するとアンメットメディカルニーズが高い領域となります。近年TNBCでは、免疫チェックポイント阻害剤Tecentriq、Keytruda、PARP阻害剤Olaparib など分子標的薬が承認され、治療セグメントは更に細分化されています。またPD-L1阻害剤Keytrudaは、高リスクTNBCの周術期療法として、KEYNOTE-522試験を基に2021年7月に米国にて承認、日本でも2021年11月に承認申請されており、早期におけるTNBC領域における治療も変化しようとしています。

転移性Hトリプルネガティブ乳がんにおける薬剤の使用傾向
[Data Source] CancerMPact / キャンサーインパクト(2021年11月調査)

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TNBC周術期療法におけるICIの浸透、ICI耐性群の治療マネジメントの検討についても注目されますが、トリプルネガティブ乳がん領域では、新規薬剤の開発が進行中となり、日本では未承認となりますが、ICI難治性TNBCに対しては抗TROP2抗体薬物複合体sacituzumab govitecan-hziy が米国では承認されています。この他、抗TROP2抗体薬物複合体Dato-DXdなど現在、ICIの対象とならないTNBCを対象に多くの薬剤の開発が進行中です。

トリプルネガティブ乳がん領域における主なADCの開発動向
[Data Source] CancerMPact / キャンサーインパクト(2022年7月時点)

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新技術がもたらす乳がん診療への変化

各国の乳がん罹患患者数 (2022年) 
[Data Source] CancerMPact / キャンサーインパクト(2022年7月時点)

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新たな技術がもたらす乳癌診療の変化と題し、多遺伝子アッセイやマイクロRNAを用いたエクソソームによる診断等の開発、リキッドバイオプシーよる遺伝子腫瘍の病的バリアント推定に関する研究報告が発表されました。乳がん術後再発リスクに関連する多遺伝子アッセイはOncotype DX (ODX)、MammaPrint (MP)、95GC(国産)等が挙げられ、昨年にOncotypeが保険承認されています。乳癌診療ガイドラインにて、HR陽性、HER2陰性でリンパ節転移陰性であれば、Oncotype DXの再発スコアが25以下の場合術後化学療法の省略が強く勧められるとされています。術後のQOL維持と治療におけるDe-escalationのトレンドも踏まえ、今後も新技術による乳癌診断や治療への影響をフォローしていきたいと思います。

CancerMPact®(キャンサーインパクト)とは?

本記事のData Sourceに使用しているCancerMPact®は、弊社サイニクスが日本国内で独占的に販売・サポートしているオンコロジー総合データベースです。がん治療対象患者数、治療動向、開発動向、アンメットメディカルニーズ等市場性評価に必須なデータを提供しています。上市戦略、LCM戦略、ライセンシング評価、競合品分析など幅広い目的でご活用頂いております。