第19回目となる日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO)が2月17日から3日間にわたり開催されました。今年のテーマは「Inspiring Asian Collaboration and the Next Generation in Oncology」で、アジア群解析から多くの臨床データの発表がありました。本記事では、参加した弊社スタッフの注目トピックをお届けします。
トピック
- Topic 1 / 乳がん
- ・HER2陽性乳がん、今後の2次治療を変えるEnhertu
- ・トリプルネガティブ乳がん、早期ステージでの免疫チェックポイント阻害剤
- Topic 2 / 非小細胞肺がん
- ・ICIが変える非小細胞肺がんの周術期治療
- ・新しいドライバー遺伝子 「CLIP1-LTK融合遺伝子」
Topic 1 / 乳がん
- HER2陽性乳がん、今後の2次治療を変えるEnhertu
昨年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO)でも発表されたHER2陽性乳がん2ndラインで、Enhertu(T-DXd)とKadcyla(T-DM1)を直接比較したDESTINY-Breast03試験では、アジア群においても主要エンドポイントのmPFSで、T-DXdが未到達、T-DM1が6.8ヶ月(ハザード比0.28)とT-DXdの優れた有効性が明らかになりました。
HER2陽性乳がんの薬物療法開始患者数とT-DM1の使用状況(2021)
[Data Source] CancerMPact Japan (2021)
*2021年11月調査におけるT-DM1使用状況
Presidential Session後の質疑応答にて、Dr. Seock-Ah Imは、アジア群解析結果からも得られたT-DXdの高い有効性を基に、アジア圏における治療ガイドラインでも2ndラインで推奨されるべきという見解を述べていました。なお、T-DXdは、昨年12月に2ndラインでの適応拡大申請が厚生労働省に行われており、近い将来、日本においてもHER2陽性2ndラインの標準治療になるものと考えられます。
- トリプルネガティブ乳がん、免疫チェックポイント阻害剤は新たな治療選択肢に
トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は標準治療が確立していないUMNが高い領域となります。1stラインではPD-L1陽性群に対してKeytruda、Tecentriqが承認されており、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)が新たな治療選択肢となっています。米国ではKeytrudaがKEYNOTE-522試験を基に2021年7月に術前・術後補助療法でも承認されており、日本おいても2021年11月に適応拡大申請が行われています。
TNBC術前・術後補助療法におけるICIの使用状況 (2021年)
[Data Source] CancerMPact Japan, CancerMPact United States (2021)
*2021年11月調査における各薬剤の使用状況
Topic 2 / 非小細胞肺がん
- ICIが変える非小細胞肺がんの周術期治療
今年のJSMO Presidential Sessionでは、非小細胞肺がん領域で免疫チェックポイント阻害剤を評価するピボタル試験からアジア群における有効性・安全性に関する試験結果の更新がありました。術後補助療法でTecentriqを評価するIMpower010試験から、アジア群においてもPD-L1発現群にて無病生存期間(DFS)の改善が報告されました。Tecentriqは、IMpower010試験を基に既に米国にて2021年10月に承認、日本でも2021年7年に適応拡大で申請中です。
非小細胞肺がん 早期ステージ(Stage I~IIIb)の補助療法開始患者数(2022)
[Data Source] CancerMPact Japan, CancerMPact United States (2022)
非小細胞肺がんの周術期治療においてはこの他、術後補助療法でOpdivo/化学療法の併用を評価するCheckMate-816試験、術後補助療法でKeytrudaを評価するKeynote-091試験(PEARLS)など多くの免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の開発が進行中です。各試験における対象Stage、主要評価項目の異なり、免疫療法がどこまで非小細胞肺がん、周術期療法を変えていくか注目されます。
非小細胞肺がん 補助療法領域におけるICIの開発
[Data Source] CancerLandscape
*2022年2月22日時点の開発動向
- 新しいドライバー遺伝子「CLIP1-LTK融合遺伝子」
遺伝子スクリーニングプロジェクト「LC-SCRUM-Asia」にて新しいドライバー遺伝子となる「CLIP1-LTK融合遺伝子」が発見されたとの報告がありました。非小細胞肺がん全体の0.4%に認められる遺伝子変異で、基礎研究においてALK阻害剤lorlatinibが極めて有効であることが報告されました。「SCRUM-Japan」では、「LC-SCRUM-Asia」を始め、「LC-SCRUM-TRY」、「MONSTAR-SCREEN」など日本およびアジア各国の医療機関と連携し、大規模な遺伝子スクリーニング研究が進行中です。今後のアジア圏外との連携も注目されます。
非小細胞肺がん 主なドライバー遺伝子における開発
[Data Source] CancerLandscape
*2022年2月22日時点の開発動向
Topic 3 / COVID-19 がん診療への影響
「院内がん登録2020年全国集計」で報告された特別集計「2020年の新型コロナウイルス感染症下におけるがん診療の実態」によると、2020年のがん診断患者数は全体的に減少していることが分かっています。また、早期ステージでの登録数が減少している傾向がみられています。今回の日本臨床腫瘍学会でもがん検診や診断、さらにがん治療への影響について、さまざまな発表が行われました。
COVID-19の肺がん診療に及ぼした影響 – 薬物治療が大幅に減少
日本肺癌学会が全国の大学病院やがん診療拠点病院を対象に行った調査から、COVID-19の肺がん治療に与える影響について報告されました。調査では、初回治療形態別に患者数を2020年1月~10月と2019年同月と比較、さらに特にがん診療への影響が出始めた4月以降の傾向を捉えるため2020年度と2019年度(4月~3月)の追加調査を行い、その結果が報告されました。
報告によると、2020年度では、肺がん治療においては、薬物治療への影響が特に大きく、前年度と比較して、新規薬物治療患者数が14%減少したとのことでした。講演では、2020年のがん検診受診率が減少していることも示され、例年であれば検診によってがんと診断される患者さんががん治療を受けられていない可能性があることが示唆されました。
今回、COVID-19に関する講演の中で、ステージ別の患者数の影響に関する質問も何度かあがっていました。これまでのがん検診への影響や早期ステージの患者数減少傾向から、今後の後期ステージでの診断の影響がどのように出てくるか注視が必要であると語られました。
世界的に見ても、COVID-19パンデミックによるがん患者数の減少が見られますが、日本でのより悉皆性の高いデータの検証には、全国がん登録の報告が待たれます。
CancerMPact®、CancerLandscapeとは?
本記事のData Sourceに使用しているCancerMPact®では、がん治療対象患者数、治療動向、開発動向、アンメットメディカルニーズ等市場性評価に必須なデータを提供しています。上市戦略、LCM戦略、ライセンシング評価、競合品分析など幅広い目的でご活用頂いております。また、CancerLandscapeはCancerMPact®の4つのモジュールの一つで、オンコロジー・スペシャリストが構築した、オンコロジー市場に特化した開発情報データベースです。