2022年1月31日に日本医師会と日本がん登録協議会(JACR)が共催するシンポジウムがオンラインで開催されました(開催概要へ)。今年のテーマは「新型コロナウイルス感染拡大とがん統計」。
ポイント
概ねどの地域でも全国集計と大きな乖離はなく、2020年のがん罹患患者数は減少傾向。胃がんが顕著に減少。診療見送りによる病期割合の移行が多方面より懸念されているが、Stage IVにおける登録数は各がんともに2019年とほぼ変わらない。早期ステージでは減少するがんのほうが多い傾向。
新型コロナの感染拡大によるがんの診療への影響は、どの企業でもこの2年間重要なテーマではなかったでしょうか。
昨年11月26日に「院内がん登録2020年全国集計」が発表され、特別集計「2020年の新型コロナウイルス感染症下におけるがん診療の実態」が報告されました。
本シンポジウムでは、愛媛県や東京都の2020年データ速報も発表され、前述の「院内がん登録全国集計」との比較がされていました。
本記事では、シンポジウムで発表された内容と「院内がん登録2020年全国集計」のデータと合わせてご紹介させて頂きます。
(1)2020年のがん診断患者数は全体的に減少(前年比-6%)
緊急事態宣言が発出されていた5月の登録数に減少傾向がみられたが、年間を通じて登録数への影響はさほど大きくなかった
- 2019年と比較すると94.1%
- 2016~2019年の4カ年平均登録数と比較すると98.1%
初回治療開始例の診断月別登録数の推移
出典:院内がん登録2020年全国集計
(Page 162 図3-2より抜粋)
(2)胃がんと咽頭がんの登録数が大幅に減少しているものの、膵臓がんや白血病は前年と同等または上回る登録数
肝臓は男女ともに横ばいであるが、特に男性では胃・大腸、女性では乳房・胃の登録数が減少
部位別登録数(初回治療開始例)より抜粋
出典:院内がん登録2020年全国集計
(Page 170 参考表をサイニクスにて加工)
(3)Stage IVにおける影響は比較的どのがん種でも少なく、早期ステージでの登録数が減少している傾向がみられた
UICC TNM分類総合病期別登録数の推移
(2020年通年での増減率 vs 2018~2019年の平均登録数)
出典:院内がん登録2020年全国集計
(Page 178~196 グラフからがん種・ステージ抜粋しサイニクスにて作成)
本シンポジウムで講演したDr. Sabine Siesling(オランダがん総合研究所)は、オランダでは最大25%のがん診断数が減少し、皮膚がんでは50%以上の減少が見られたと報告されていました。
各国で影響は異なると予想されますが、世界的にがんの罹患者数は例年より減少し、病期割合の変化もがん種によっては注意が必要そうです。
日本では全体的に減少している傾向が見られますが、Stage IVで診断される患者数や化学療法(初回治療)報告数は2019年と2020年では大きく変わっていません。製薬企業の視点から市場規模にはさほど大きく影響はなさそうでしょうか?
今回発表された内容はあくまでも「がん診療連携拠点病院」をベースにした報告であり、全体の影響はまだ正確にはわかっていません。人々の移動手段や行動範囲にも影響があり、今まで遠方の拠点病院や県をまたいで受診を行っていた患者がより近くの病院を選択している可能性もあるという意見も一部ではあがっています。
皆様のご経験や医療現場からのお声などがあればぜひお聞かせいただけますと幸いです。
2020年の「全国がん登録」データが発表された際には、より注意しながら分析・推計を行う必要があります。今後Patient Metricsをはじめとする分析データをご活用される際には、データソースと分析手法をぜひ確認されてください。
Patient Metricsとは?
オンコロジー総合データベースCancerMPact®の4つのモジュールの一つで、各国の「がん登録」を基に分析をした患者数統計データベースです。進行・再発を加味し、2050年までの患者推計を約30がん種でご提供しています。
サイニクスとがん登録の関わり
弊社サイニクスでは2007年より日本がん登録協議会(当時:地域がん登録協議会)の賛助会員となり、同組織の活動をサポートしています。