米国血液学会(ASH)2019にてAML、多発性骨髄腫、ALLの注目発表!! サイニクス オンコロジー・マーケット・アセスメントチームが解説

第61回米国血液学会(American Society of Hematology)が2019年12月7日~10日米国Orlandoで開催されました。今年も3万人以上の医療関係者が参加し、3,000以上の研究が発表され、大きな盛り上がりを見せていました。サイニクスからも数名が渡米し、Cerner Enviza℠ のコンサルタントとともに 情報収集してまいりました。今回のSynix Oncology Newsletterでは、サイニクス、Cerner Enviza℠が注目した講演トピックをお届けします。

AMLに維持療法という新たな治療選択肢 / 経口用azacitidine CC-486追加投与でOSを延長

寛解導入後に完全寛解が得られた急性骨髄性白血病(AML)の維持療法として、DNAメチル化阻害薬azacitidineの経口剤CC-486とプラセボを比較した第lll相QUAZAR AML-001試験(NCT01757535)結果について、The Alfred HospitalのAndrew H. Wei氏から発表があった。

2017年以降、急性骨髄性白血病(AML)ではFLT-3阻害剤、BCR-2阻害剤、SMO阻害剤、IDH1/2阻害剤等など多くの分子標的薬が承認され、「7+3」療法を超えて個別化医療の時代に入ったと言える。しかし、AMLの5年生存率は30%以下と予後が非常に悪く、「長期生存率・治癒率を向上させる治療」への課題は残る。

急性骨髄性白血病の生存率
Data Source: Patient Metrics

サイニクス オンコロジー がん 骨髄性白血病 生存率

A) 全生存率(OS) / B) 無再発生存期間(RFS)

第lll相QUAZAR AML-001試験は、寛解導入療法後療法に完全寛解(CR/CRi)を達成したAML患者を対象に、維持療法として①CC-486投与群、②プラセボ投与群における全生存期間(OS)、無再発生存期間(RFS)を評価した非盲検ランダム化比較試験である。今回のデータ発表ではCC-486投与群において主要評価項目のOSと副次評価項目のRFSがともに有意に改善されたことが報告された。

サイニクス オンコロジー 急性骨髄性白血病 CC-486投与 プラセボ投与
サイニクス オンコロジー 急性骨髄性白血病 CC-486投与 プラセボ投与

また、本発表ではOSに加え1年生存率においてCC-486投与群:プラセボ群で73%:56%、2年生存率において51%:37%の改善が報告された。有害事象の発生頻度に関してはCC-486投与群で消化管毒性、悪心、嘔吐、下痢など(All Grade)が確認され、CC-486投与群での発生頻度が高い傾向にあった。なお、有害事象による治療中止はCC-486投与群:プラセボ群で43%:17%となっていたが、QOL評価(FACIT-Fatigue Scores)では両群で大きな差はなかった。

Fit/Unfit割合
Data Source: Treatment Architecture Japan and United States 2019

寛解導入療法後の完全寛解率(CR)
Data Source: Treatment Architecture Japan and the United States 2019

azacitidineは第lll相QUAZAR AML-001試験結果を基に2020年に承認申請予定とのことで、承認されれば寛解導入療法後の新たな治療オプションとなることが見込まれる。ただし、寛解導入療法の対象となるFit群はAMLの60%~70%であり、寛解導入療法後の完全寛解率は約50%であることに留意したい。維持療法という新たな治療オプションが台頭した後も引き続きAMLにおける大きなアンメットメディカルニーズである「再発・難治例に対する治療」、「高齢者の治療」、「長期生存率・治癒率を向上させる治療」への課題は残る。

*1 ASH annual meeting 2019: LBA-3 The QUAZAR AML-001 Maintenance Trial: Results of a Phase III International, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Study of CC-486 (Oral Formulation of Azacitidine) in Patients with Acute Myeloid Leukemia (AML) in First Remission (https://ash.confex.com/ash/2019/webprogram/Paper132405.html)

再発・難治性MM / KdD療法が新たな治療選択へ期待

多発性骨髄腫は近年、多くの薬剤が開発・承認され治療選択が劇的に変化している。まだまだ新薬や新たな併用レジメンの開発が進んでおり、今回のASHでも多発性骨髄腫に関する発表が多くなされた。

現在1stラインでは免疫調整剤(IMiD)やプロテアソーム阻害剤が標準治療となっており(日本におけるRVDレジメンの使用割合:移植適合 54.9% / 移植非適合 28.9%)、治療後に奏功する患者は多いもののその奏功期間は長くはなく、ほとんどの患者が治療後5年以内に再発する。

初回治療後の再発率
Data Source: Treatment Architecture Japan 2019 – Multiple Myeloma

また、再発・難治性多発性骨髄腫に対してはDarzalex (daratuzumab, GenMab/Janssen)やKyprolis (carfilzomib, Amegen/Ono)といった新薬との併用レジメン等、治療選択が増えてきてはいるが、 更なる治療選択が必要とされている 。

今回、再発・難治性多発性骨髄腫においてKyprolis + dexamethasone + Darzalex (KdD)とKyprolis + dexamethasone (Kd)を比較した国際第lll相CANDOR試験の主たる解析結果 が報告され注目を集めた。

CANDOR試験の主要評価項目は無増悪生存期間中央値(mPFS)であり、副次評価項目は奏効率(ORR)を含む10項目を評価。今回の発表でKdD投与群が主要評価項目のmPFSを有意に改善したことが示された。

無増悪生存期間中央値(mPFS)*2

副次評価項目についても、12か月時点での微小残存病変(MRD)陰性患者における完全奏効率はKdD群がKd群に比べ10倍近く高く(KdD群:12.5%、Kd群:1.3%)、これらの解析結果からKdDによる治療が再発・難治性多発性骨髄腫患者の効果的な治療選択となるだろうと期待が寄せられた。

*2 ASH annual meeting: LBA-6 “Carfilzomib, Dexamethasone, and Daratumumab Versus Carfilzomib and Dexamethasone for the Treatment of Patients with Relapsed or Refractory Multiple Myeloma (RRMM): Primary Analysis Results from the Randomized, Open-Label, Phase 3 Study Candor (NCT03158688)” (https://ash.confex.com/ash/2019/webprogram/Paper132629.html)

ALLの治療戦略と新たな免疫療法の役割 / 造血幹細胞移植の橋渡しを担う blinatumomab

小児B細胞性急性リンパ性白血病(pediatric B-ALL)において、CD19とCD3に二重特異性を有するT細胞誘導(BiTE®)抗体blinatumomabと標準化学療法を比較した第III相AALL1331試験(NCT02101853)の結果が、米Sidney Kimmel Comprehensive Cancer CenterのPatrick A. Brown氏より発表された。

急性リンパ性白血病(ALL)は主に6歳以下の小児に多い疾患である。ALLの治療は多剤併用の寛解導入療法により高い寛解率が期待できるものの、その半数以上は再発し、約30%は初回治療に抵抗性を示す。また同種造血幹細胞移植を受けた後に再発したALL患者の予後は不良で、造血幹細胞移植の実施率の向上を含め、新たな治療選択肢が求められているアンメットニーズが高い領域となっている。

白血病の生存率 (米国)
Data Source: Patient Metrics United States 

第lll相AALL1331試験は、小児B細胞性急性リンパ性白血病(Pediatric B-ALL)の初回再発患者を対象に寛解導入化学療法後の①標準治療群(強力化学療法群)と②blinatumomab投与群における群無病生存率(DFS)、全生存率(OS)、MRD(微小残存病変)、造血幹細胞移植率を評価した非盲検ランダム化比較試験である。今回のデータ発表ではblinatumomab投与群において主要評価項目の無病生存率(DFS)、全生存率(OS)が有意に改善されたことが報告された。

無病生存率(DFS)、全生存率(OS)*3

①標準治療群②blinatumomab群
2年無病生存率 (DFS)41.0% ± 6.2%59.3% ± 5.4%
p=0.050
p=0.050
2年全生存率 (OS)59.2% ± 6.0%79.4% ± 4.5%p=0.00

また副次評価項目であるMRD(微小残存病変)陰性化、投与後の造血幹細胞移植率においてもblinatumomabが有意な改善を示しており*3、有害事象の発生頻度も顕著に軽減されたことが報告された。

本試験は日本では実施されていないが米国、オーストラリア、カナダ等で実施され、中間解析時に無病生存率(DFS)、全生存率(OS)、MRD(微小残存病変)の陰性化の評価項目に有意な改善が認められたことで、早期終了している。今後、初回再発時の寛解率の向上や造血幹細胞移植の橋渡しとして重要な役割を担うと考えられるblinatumomabの使用に継続して注目していきたい。

*3 ASH annual meeting 2019: LBA-1 “A Randomized Phase 3 Trial of Blinatumomab Vs. Chemotherapy As Post-Reinduction Therapy in High and Intermediate Risk (HR/IR) First Relapse of B-Acute Lymphoblastic Leukemia (B-ALL) in Children and Adolescents/Young Adults (AYAs) Demonstrates Superior Efficacy and Tolerability of Blinatumomab: A Report from Children’s Oncology Group Study AALL1331” (https://ash.confex.com/ash/2019/webprogram/Paper132435.html) 

Cerner Enviza℠ コンサルタントが解説
~米国血液学会(ASH)2019 がんの治療パラダイムを変える注目データ~