がん統計データの総集編!「がん統計の活用と未来」シンポジウムより ~ 2019年11月17日開催 日本医師会・日本がん登録協議会主催 より~

今回のSynix Oncology Newsletterでは、11月17日に開催された日本医師会・日本がん登録協議会主催のシンポジウム「がん統計の活用と未来」のハイライトをお届けします。

全国がん登録以外にも、院内がん登録、DPC、National Clinical Database (NCD)、C-CAT、Master Keyなど、がんに関連する様々なデータベースについて現状や今後の展望について講演がありました。会場では、疫学・統計の専門家や臨床医、製薬企業の方々も多くの参加され、がん統計データを扱うそれぞれの立場から情報発信がされた大変貴重な一日でした。

「がん登録データ利用と未来」

全国がん登録データ利用と未来
国立がん研究センターがん対策情報センター 松田智大氏

2016年に「がん登録等の推進に関する法律」が施行され、全国がん登録の仕組みが動き始めて3年、 2019年10月に「全国がん登録」として初めての罹患数・率(2016年集計)が報告された。がん登録の精度を示すDCO(Death Certificate Only;死亡票のみの症例)は3.2%(2004年は17.1%)となり、日本のがん登録の精度が大きく進歩したといえる。

ただ北欧や北米などでは、遡り調査が比較的容易にできる仕組みができており、より精度の高いデータの収集とともに時間と費用の大きな削減につながっているとのこと。日本でも固有ID活用の重要性と更なる法整備の重要性が指摘された。「集めるがん登録」から「使えるがん登録」へ、日本のがん登録の今後に注目していきたい。

院内がん登録データ全国集計の分析
国立がん研究センターがん対策情報センター 院内がん登録分析室 奥山絢子氏

院内がん登録では、院内のがん医療の状況を適切に把握する為、全国のがん診療連携拠点病院等で診断されるがん患者の受療状況、生存率などに関する情報を収集し、データ分析を行っている。最新の2017年全国集計報告では、842施設から約102万件、約20がん種の診断時の病期、病期別の初回治療形態などが報告されている。他のがん統計データとのリンケージを求める声が高い中、まだまだ2次利用はハードルが高いのが現実である。

「様々ながん統計の活用事例」

DPCデータから見るがん診療の実態
国際医療福祉大学大学院 医学研究科 石川ベンジャミン光一氏

DPC (Diagnosis Procedure Combination) データは、医療機関内における診療の品質管理、経営分析、複数医療機関からのデータを集積した研究にも活用されている。厚生労働省の調査では、各病院の傷病別・治療別の患者数・入院患者数等のデータが公開され、患者推計と対比した多地域別の需給分析やアクセシビリティーの分析が実現している。DPCデータにより、診療実態の把握がしやすくなってきてはいるが、今後は長期予後情報などより詳細な診療情報や、施設間における患者データの統合など更なる改善も期待される。

 National Clinical Database (NCD)における臓器がん登録
慶応義塾大学医学部 医療政策・管理学教室 高橋新氏

National Clinical Database (NCD)は2010年4月に立ち上がり、2011年から症例登録が開始された。現時点では約5,000施設が参加し、約1,000万以上の症例データが集積されている。外科手術の約95%をカバー。

高橋先生からは、NCDプラットフォームを活用し、産官学が連携した臨床研究TAVI症例の全例登録における市販後調査について紹介があった。TAVI全例登録は、2014年6月に運用が開始され、症例数は2017年には年間6,000症例を超えた。学会と連携した事で、治験実施施設以外の症例から、治験の段階ではわからなかった有害事象が把握可能になったり、精度の高い症例が迅速に蓄積できるなど多くのメリットあったとのこと。TAVI全例登録から企業が取り出せるデータは、市販後調査に関連する情報のみとなっているが、全データが活用できるようになれば、承認取得にも活用できるようになるのではと期待されている。なお、NCDを活用して症例登録を行っているがん学会が多いことも着目すべき点である。

「がん登録「ゲノム診療時代のがん臨床データベース」

National CliC-CATにおけるゲノム情報
国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター 吉田輝彦氏

全国のゲノム医療の情報を集約・保管し、その情報を基に新たな医療を創出することを目的に、「がんゲノム情報管理センター(C-CAT)」が2018年に開設された。2019年3月には、製薬企業が集約されたがんゲノムデータを2次利用できる方針もがんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議で承認された。そして5月には、がん遺伝子パネル検査の2製品が保険適応され、がんゲノム情報を集約化するプラットフォームも新たに構築された。一方で中核病院などにおけるC-CATへのデータ入力負担(一患者あたり約25分程)や、今後承認データとしてデータの2次利用がされるようになると入力データの品質の担保など、現在の課題についても触れられた。

ジストリーデータの活用方法 MASTER KEY
国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科 米盛勧氏

医薬品の開発は、開発フェーズが進むとともに多大な時間と費用を要することは言うまでもなく、開発費用の増大が高価な医薬品を生み出している一因ともいえる。米盛先生からは、蓄積される医療情報からエビデンスを見出そうという試み(Real-World Evidence)について講演があった。

米国では既にRWDが承認データとして活用されている。男性乳がんに対する治療薬の適応拡大をRWDだけで承認した例がある。大規模なランダム化比較試験が難しい領域で治験データの代替情報として活用されたケースである。製薬企業にとっても開発費用を大きく削減できるだけでなく、より早く薬剤を患者に届ける事ができるなどのメリットがある。この他、臨床試験のプラットフォーム、製造販売後調査等におけるRWDの利用も期待されている。

「製薬企業が求めるがん情報とは」

最後に、本シンポジウムでは弊社が「製薬企業が求めるがん情報とは」という演題で講演をいたしました。演者の先生方をはじめ会場の医師や研究者の皆様からも、非常に興味をお持ち頂きお問合せをたくさん頂戴しております。製薬企業がどのようにデータを使っているのか?何を求めているのか?皆様の声を少しでもお伝えできるよう今後も発信していければと思っております。

まとめ

蓄積された医療データを活用し、その利便性を更に高める為には、データベース同士をどうリンクするかや、各データベースの品質の担保、医療現場の負担軽減など多くの課題が残っています。ですが、松田先生が「過去、非常に困難と思われたがん登録推進法は2016年に成立しました。」とお話しされていたように、少しずつ課題が解決され、幅広く活用できるがんの統計データが一元化されることを期待したいと思います。各先生方が、ご自身のデータベースの枠を超え活発にお話しをされていたことも、本シンポジウムの非常に印象深かった点でもあります。がんに関連する統計データの在り方や、2次利用等の可能性も示唆されたよう思います。サイニクスでは、各がん関連統計データの益々の充実と発展をお祈り申し上げますとともに、今後もがん登録データは勿論がん統計データ全般に引き続き注目していきたいと思います。
※本シンポジウム報告ページはこちら(日本がん登録協議会のページ)

サイニクスは日本がん登録協議会(JACR)の活動をサポートしています

弊社では2007年より日本がん登録協議会(当時は地域がん登録)の賛助会員となり、日本におけるがん登録の発展を微力ながら応援してまいりました。

2017年~2020年:厚生労働省 科学研究費補助金 がん対策推進総合研究事業における活動について

厚生労働省科学研究費補助金がん対策推進総合研究事業
 「都道府県がん登録の全国集計データと診療情報等の併用・突合によるがん統計整備及び活用促進の研究」
 (主任研究者:松田 智大 国立がん研究センターがん対策情報センター)

サイニクスの分担研究テーマ
 「産業界におけるがん登録データ活用の検討」
 「既存のがん関連統計情報の整理」