アルツハイマーの早期発見の鍵は血液バイオマーカー!?~ 第38回日本認知症学会学術集会より ~

11月7~9日に新宿の京王プラザホテルにて第38回日本認知症学会学術集会が開催されました。今年は「認知症学の体系化 ― 基礎から臨床、ケアまで ―」をテーマとし、認知症の基礎研究や創薬の進展、早期・非侵襲的診断、予防、合併症、ケア、終末期医療など幅広い範囲にわたり発表が行われました。長年、疫学分析サービスを提供するサイニクスが注目したアンメットニーズが高いアルツハイマーの治療と疫学的観点のトピックをお届けします。

Topics
  • アルツハイマー
    • 早期診断の重要性と課題からみえる血液バイオマーカーへの期待
    • 薬剤の開発をめぐる状況
  • 認知症のコホート研究やレジストリー
    • 認知症の疫学研究 難しながらも高い質を確保している研究

アルツハイマー

早期診断の重要性と課題からみえる血液バイオマーカーへの期待

認知症の中でも大きな割合を占めるアルツハイマー。アルツハイマー病の脳内病変は発症から約25年前に始まっており、アミロイドβの沈着に続き、タウによる細胞障害、脳構造の異常、記憶障害、認知機能障害が順次出現する(図1)。そして、MCI(軽度認知障害)の前ステージをプレクリニカルADと呼ぶ。アルツハイマーは根治治療がなく、現状対症療法のみ。早期に発見できれば、認知症の発症や進行を遅らせることができるため、早期発見が重要とされる。

プレクリニカルADやMCIでのアミロイドβ沈着はアミロイドPET検査や脳脊髄液検査において検出されるが、PETを使用できる施設は限定され、コストも高く、脳脊髄液検査は侵襲性が高い。低侵襲で簡便な血液バイオマーカーが強く望まれており、同学術集会においても関心度が高く、IP-MS法(免疫沈降―質量分析法)により測定されたペプチド比を組み合わせた複合バイオマーカーに関する研究等、血液バイオマーカーに関する研究発表が行われていた。

アルツハイマーの薬剤開発-薬剤開発中止が相次ぐ中、アデュカヌマブは再度申請をめざす

アルツハイマーの開発薬は2018年時点で全世界で約110剤あるが、開発中止になるものが多く、学術集会においても約3000剤あるがん治療薬と比べ承認に結び付く確率は低いという発表があった。そんな中、アデュカヌマブ (米バイオジェン、エーザイ)が臨床第3相(P3)試験の中止から一転、米FDA(食品医薬品局)への承認申請を2020年に目指すとの発表。早期アルツハイマー病の臨床症状悪化を抑制する可能性がある初の治療剤として、会場でも期待が高まっていた。

認知症のコホート研究やレジストリー

認知症の患者数はWHOの報告によると2015年において世界で5,000万人との報告があり、世界的な課題となっている。高齢化が進む日本においては、厚生労働省研究班の調査によると、認知症患者は462万人(2012年)とのこと。国を挙げての政策がとられており、認知症の実態把握をするために疫学研究やコホート研究データが利用されている。認知症に関してさまざまな疫学研究やレジストリ研究が行われおり、本学術集会でも「認知症の疫学とコホート研究」のシンポジウムにてフォローアップ体制が確立している久山町研究や海士町などのコホート研究、並びに認知症の治療方法やケア手法の確立に向けた治験や臨床研究のためのオレンジレジストリ等について発表された

認知症の疫学研究 難しいながらも高い質を確保

認知症の疫学研究で有病率等を把握するには、健康診断による調査では難しく(20%~40%程度の患者しか把握できないとの報告がある)、訪問調査が必要。そのためには、行政との密接な連携が重要となる。紹介された久山町研究および海士町の研究では、住民との協力体制とともに、行政との連携が確立。保健士が訪問調査において非常に重要な役割を果たしており、質の高い研究結果に貢献していると語られた。

  • 久山町研究:
    • 1961年から開始された、福岡市に隣接した糟屋郡久山町(人口約8,400人)の住民を対象に脳卒中、心血管疾患などの疫学調査。認知症の疫学調査は1985年に65歳以上の全高齢住民を対象とした認知症および日常生活動作(ADL)の有病率調査を皮切りに開始。その後1992年、1998年、2005年、2012年にも同様の調査が実施され、調査の受診率はいずれも90%を超える
  • 海士町の研究:
    • 島根県海士町(人口約2,500人)は孤島の町であり、高齢者の人口移動が少なく疫学研究を行う上で適した地域。60歳以上の住民約1,000名を対象とした認知症やパーキンソン徴候,うつ状態の悉皆調査および頭部MRI撮影を含む高齢者調査(脳ドック検診)を行っている
  • オレンジレジストリ:
    • 健常者から、前臨床期、MCI、軽度認知症、中等度認知症、進行期認知症の方まで様々な人の情報を集め、認知症の治療方法やケア手法を明らかにするために設立されたレジストリ。北海道から九州の各地コホートから、現在8,000名の登録があり。治験や臨床研究の潜在的対象者となっている