久山町最新スタディ-糖尿病はアルツハイマーの危険因子 ほか~第26回日本疫学会学術総会より~

【今回のトピックス】

  • 久山町最新スタディ -糖尿病はアルツハイマーの危険因子
  • エコチル調査(妊娠時~出生以後13歳までの追跡調査) -2011年開始、全国大規模10万組親子に対する調査進行中
  • アジア諸国との疫学分野での連携強化の可能性

寒波で雪が降りしきる中、鳥取県米子市にて、2016年1月21日(木)~24日(土)の会期で日本疫学会学術総会が開催されました。弊社からは例年必ず参加している学術総会となりますが、こうして学術総会の注目トピックをお届けするのは初めてです。ぜひご一読ください。

久山町最新スタディ   -糖尿病はアルツハイマーの危険因子

平林直樹氏らは、2012年に久山町で健診を受診した65歳以上の住民1,238名を対象に、耐糖能レベルを評価するとともに、頭部MRI検査を実施しました。 MRIによる計測結果は、全脳容積(TBV)、頭蓋内容積(ICV)、海馬容積(HV)。また、24年前(1988年)に実施した健診結果と突合することで糖尿病の罹患期間を調査しました。 その結果、糖尿病の罹患期間が長くなるとともに、TBV, ICV, HVのいずれの比率も有意に低下(多変量解析後)。他因子として、たばこや飲酒、高血圧も検討されましたが、 いずれも糖尿病ほどのはっきりとした因果関係は得られなかったといいます。また、治療法による違いがあるかも検討されましたが、これはインスリン投与患者が十数名と 限定されていたことが影響したためか同じ結果が得られたということです。結論として、糖尿病の罹患期間が長くなるに伴い、海馬萎縮が進行することが示唆されました。

認知症治療薬の開発が各社で動きを見せる中、糖尿病罹患期間との関連性を示唆する興味深い発表となりました。

エコチル調査(妊娠時~出生以後13歳までの追跡調査)

2011年開始、全国大規模10万組親子に対する調査進行中
2011年に、全国15地域においてはじまった親子10万人を対象にした疫学調査をご存じですか?子どもの健康と環境に関する全国調査「エコチル調査」です。 世界各国(アメリカ、フランスなどの欧州、上海)も同様の調査がすでに実施されています。日本では、環境省が厚生労働省、文部科学省と連携し調査を進めています。 また、世界各国の調査とも協力体制を整えています。

国内では、2011年~2013年までの間で10万人の妊婦の募集・登録が完了し、その子どもが13歳になるまでの健康状況の追跡調査が実施されます。 今回は、化学物質による大気汚染が妊婦にどのような影響を与えるかという研究が発表されていました。今後は、妊娠期の環境が子どもに及ぼす影響や、 血液などの生体試料の化学分析によるさまざまな研究が実施される予定です。

これだけ大規模に長期間行われる調査を通じて、新たな診断方法や予防法の開発に今後役立つのではないかという見解が示唆されています。

エコチル調査の詳細はこちら:
http://www.env.go.jp/chemi/ceh/

アジア諸国との疫学分野での連携強化の可能性

学会2日目には、特別講演として、韓国、中国、台湾の疫学会の代表から、各国における疫学会の創設と変遷、現在の状況に関する発表がありました。 将来の展望として、若手を中心に年次総会や研究会での交流や、国の垣根を越えた共同研究などが提案され、活発な議論が交わされました。 国際的な疫学的な研究が発展すると、疾病の人種差などがより詳細に検証される可能性があり、期待されるところです。

また、日本疫学会会誌の編集長である井上真奈美先生は、日本疫学会の現状として、所属する2,000名の先生方のご専門についてアンケート調査を実施した結果を発表されました。 専門として割合が多かった順から「健康・栄養関連」、「循環器疾患」、「がん」となっていました。

特別口演や一般口演、ポスターすべての発表内容からみても、がん登録データやがん検診に関する発表が全体の30%以上を占めていました。がん登録については、 先生方も研究課題として注目されているようです。

■ 編集後記 ■

西日本は40年ぶりの寒波が到来し、米子市は見渡す限りの雪。長靴を履いてご講演される先生もいらっしゃるほどでした。 ですが、学会はもちろんのこと、懇親会も遅くまで盛り上がり、皆様帰途を心配しながらも楽しんでいる様子でした。