アルツハイマー病・疾病修飾薬、到来への期待と課題 ~第40回日本認知症学会学術集会より~

第40回日本認知症学会学術集会が2021年11月26日~28日に東京にて開催されました。今年は「病態研究から治療そして共生へ」をテーマとし、認知症の基礎研究や研究技術、疾患修飾薬開発状況、画像・体液バイオマーカー、予防、合併症、ケア、社会制度から終末期医療までを広い範囲にわたり発表が行われました。疫学分析サービスを提供するサイニクスが疫学的観点から、学会で注目された発表内容からDMT療法や予防介入に関するトピックをお届けします。

疾病修飾薬(DMT)到来に向けて

学会テーマにもある「がん登録を支える技術」という視点で、精度の高いデータを集め、データを応用する分析技術まで幅広くディスカッションが行われていました。
2021年6月7日に米国食品医薬品局(FDA)によりアルツハイマー病に対しaducanumabを迅速承認され、大きな注目を集めました。日本でも2020年に12月に申請されていますが、本学会では疾病修飾薬の到来へ向けて直面する課題について議論が交わされました。

高度な診断体制の重要性

アミロイド陽性の初期アルツハイマー病患者が対象のため、投与対象者を選定するための診断方法の確立(疾患ステージの判定、バイオマーカーなど)により高度な専門性が求められる

認知症施策全体への影響と早急な課題解決の必要性

懸念される副作用、ARIA(アミロイド関連画像異常)への管理体制(MRI施設との連携等)とともに、社会コストへの影響(費用対効果)、検診の在り方や認知症施策全体への影響など、議論を加速させ早急な解決が必要

サイニクスでは認知症患者数とともにDMT治療開発でのより早期患者の疫学患者数把握の必要性等も踏まえ、日本におけるDMT開発の動きについて引き続きフォローしていきたいと思います。

本格化するDMT治験:より早期患者を対象に、予防介入への期待も

認知症研究においてはより早期患者を対象としたDMT治験が本格化するとともに、認知症予防に関しても注目が集まっており、世界的にさまざまな研究が行われています。認知症学会でも官民パートナーシップによるA4試験、AHEAD試験などを含むDMTの国際的な治験状況、より早期患者リクルートをサポートする治験即応コホート研究(J-TRC)や認知症予防の介入研究(J-MINT)について報告されていました。

 J-TRC(治験即応コホート研究)

DMT治験が本格化する中、効率的な参加者リクルートのための対策が求められています。そういった中、DMT治験の適格な条件を満たす参加者を効率的に見出す「治験即応コホート:Trial ready cohort(TRC)」の構築が世界で進められており、日本でもJ-TRC研究が開始されています。

  • 東京大学大学院・附属病院が2019年10月から開始した認知症研究トライアルレディコホート
  • 認知症の未発症期(プレクリニカル期)の一般人や発症初期(プロドローマル期)の患者を対象とし、最終的に50歳~85歳の2万人の登録を目指す
  • 高感度認知機能検査(PACC等)、アミロイドPET、血漿バイオマーカー等評価等

J-MINT(認知症予防を目指した多因子介入によるランダム化比較研究)

高齢化が進む日本において認知症対策として、認知機能低下の抑制や認知症を有する人の生活支援・社会受容を可能にする介入に対する社会的ニーズがますます高まっています。海外ではFINGER研究において生活習慣への介入による認知症ハイリスク者への認知機能改善効果が報告されており、日本でも生活習慣病管理や運動、栄養介入、認知トレーニングからなる多因子介入で認知症予防効果を明らかにするために、多因子介入によるランダム化比較試験が開始されました。

  • 2019年に国立長寿医療センターを中心として開始した認知症のリスクをもつ高齢者500名を対象とした他因子介入によるランダム化比較試験
  • 総合的認知症予防プログラムの認知機能向上や認知機能低下の抑制に対する有効性を検証
  • ゲノム情報、血液バイオマーカー、各リスク因子により層別化し、認知症の実体に応じた予防戦略を明らかにする