変形性股関節症(HOA)の有病率 / プリオン病の疫学 他 ~第32回 日本疫学会学術総会から注目トピックをお届け~

2022年1月26日~28日に第32回日本疫学会学術総会が実施されました。今回のメインテーマは「社会と疫学」。社会経済格差の拡大に伴う健康被害や健康格差が話題にされることが多い昨今にふさわしいテーマのもと、様々なディスカッションが行われました。また、新型コロナウイルス感染症に関係する発表や、災害疫学に関する発表も多数ありました。
本記事では、長年疫学分析サービスを提供するサイニクスが、製薬企業の皆様に関連性の高いトピックを厳選してお届けいたします。詳細な研究結果やデータは直接発表内容にてご確認下さい。

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変形性股関節症(HOA)の有病率

ROADスタディ(大規模住民コホート調査、対象年齢:40歳~89歳)における2005年~2007年の調査と2015年~2016年の調査を比較した結果が発表された。2005年~2007年の有病率は15.8%(男性18.4%、女性14.4%)、2015年~2016年の有病率は12.4%(男性16.0%、女性10.7%)で有意に低下していた。年代別・男女別に比較したところ、男性では40歳~70歳代、女性では40歳~60歳代において低下傾向であった。

変形性膝関節症の有病率の推移:10年間の地域追跡コホートより(飯高世子 東京大学22世紀医療センター ロコモ予防学講座 )

プリオン病の疫学

プリオン病サーベイランスに基づき疫学結果が発表された。1999年4月~2021年9月までに8,244人の情報が収集され、4,166人がプリオン病と認定された。発症率が最も高かった2014年における罹患率は2.36(人口100万人対年間)で増加傾向にある。女性が若干多く、孤発性CJD(sCJD)がもっとも多く76%を占める。

全国サーベイランスに基づくわが国のプリオン病の記述疫学(小佐見光樹 自治医科大学 地域医療学センター 公衆衛生学部門)

2018年度~2020年度の血圧変化とその要因

2018年度~2020年度の血圧変化を健診データに基づき検討された。2018年度に比べ2019年度では降圧治療者での収縮期血圧の低下が見られた一方で(女性で1.1mmHg、男で0.29mmHg低下)、2019年度~2020年度では血圧の上昇が報告された。その変化の要因として、2019年の高血圧治療ガイドライン改定や2020年の新型コロナウイルス感染拡大による社会活動制限などとの影響が示唆された。(収縮期/ 2018年度~2020年度の血圧変化を健診データに基づき検討された。2018年度に比べ2019年度では降圧治療者での収縮期血圧の低下が見られた一方で(女性で1.1mmHg、男で0.29mmHg低下)、2019年度~2020年度では血圧の上昇が報告された。その変化の要因として、2019年の高血圧治療ガイドライン改定や2020年の新型コロナウイルス感染拡大による社会活動制限などとの影響が示唆された。(収縮期/ 拡張期血圧が女性・未治療で2.06/ 1.05 mmHg、女性・治療中で1.68/ 0.41 mmHg、男性・未治療で1.51/ 1.10 mmHg、男性・降圧治療中で0.88/ 0.37 mmHg上昇)

健康保険組合・国民健康保険の健診データに基づく2018~2020年度の血圧変化とその要因(佐藤倫広 東北医科薬科大学医学部 衛生学・公衆衛生学教室/東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 予防医学・疫学部門)

エコチル調査(子どもの健康と環境に関する全国調査)

エコチル調査の現在の進捗が発表された。現在、対象の子供は6歳~10歳。発達、免疫・アレルギー、代謝内分泌系の影響についてデータ収集されている。本学会でもエコチル調査を用いた多くの研究発表が行われた。また、今度外部データとのリンケージや民間企業の利用実施を予定しているとのことであった。

エコチル調査を用いた研究発表

  •  妊婦の染毛剤使用と生まれた子どもの3歳時のアレルギー疾患との関連: エコチル調査より
    (小島令嗣 山梨大学 社会医学講座)
  • 母親へのヨードばく露と生まれた子どもの甲状腺機能低下症:エコチル調査
    (横道洋司 山梨大学 社会医学講座)
  • 妊娠中期総コレステロール値とSGA・LGAの関連: 子どもの健康と環境に関する全国調査
    (エコチル調査)(金子佳世 名古屋市立大学大学院医学研究科 環境労働衛生学分野) 他 

エコチル調査とは:
環境省で行っている2011年から10万人の妊婦を対象にその子どもが13歳になるまでを追跡する大規模な出生コホート研究。胎児~幼児期の環境のその後の健康に与える影響を調査

がんの疫学

20年間でがん患者の生存率が向上。早期診断の普及が原因

20年間でがんの生存率は向上しており、予後の良いがん種の増加や早期診断割合の増加が大きな要因であった。10年生存率において大きな改善が見られたがん種は男性では胃、前立線、女性では胃、甲状腺であった。

20年間でがん患者の生存率は向上したか?6府県の住民ベースのがん登録による検討(伊藤ゆり 大阪医科薬科大学研究支援センター 他)

NSCL(非小細胞肺がん)患者の予後における分子標的薬による影響

NSCL患者の予後は喫煙率の低下、CT検査の普及による早期発見の増加、腺がん罹患の増加に伴い改善してきた。本研究によりEGFR阻害剤の保険承認により短期的予後の改善に貢献していることが推察された。

住民ベースのがん罹患情報を用いた非小細胞肺がん患者の予後における分子標的薬による影響の評価
(谷山祐香里 愛知県がんセンター がん情報・対策研究分野 他)

食道がんのアンメットニーズ

食道切除手術直後は約7割(高度障害は約1割)術後2年後も5割以上で栄養障害を抱えている。

食道切除後2年間のCONUT値にもとづく栄養状態の経時変化:コホート研究(吉田真也 京都大学医学部付属病院 他)

希少がんの地域差

希少がんFamilyのTier 1では基本的に地域差は少ないが、一般がんFamilyのTire1では、地域差が大きい。

希少がんFamilyのTier1

胆嚢および肝外胆管では東北地方、悪性中皮腫では大阪、兵庫、肉腫では宮城、リンパ性腫瘍では九州地方、骨髄増殖性腫瘍では広島が高い。

一般がんFamilyのTier1

肺、膵臓、腎臓では北海道、肝臓および肝内胆管では西日本、膀胱では青森県で高い。子宮頸は九州地方で多く、東京、神奈川では低かった。甲状腺では宮崎が他地域と比べ極端に高かった。

全国がん登録データに基づくRARECAREnet listを用いた都道府県別がん罹患率比較(杉山裕実 財団法人 放射線影響研究所疫学部 他)