希少がんの疫学/がん登録データの利活用における課題と今後の対応 ~ 日本がん登録協議会(JACR) 第31回学術集会より

日本がん登録協議会(JACR)第31回学術集会が、2022年6月2日~4日の3日間にわたり今年もWebで開催されました。 アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)2022と重なる日程でしたが、オンライン開催であるが故になせる業。サイニクスのスタッフは日夜でライブ参加をさせて頂きました。

今年のテーマは「利活用を目指すがん登録」でした。全国がん登録が開始されて早6年目。次のステージに向けて、集積されたデータの利活用について様々な発表・ディスカッションがされていました。 利活用における課題点や、他データとのリンケージの重要性など、製薬企業からの声として過去に弊社のセミナーやニュースレターでも触れてきた課題はしっかり学会にも届いていることを実感しました。

サイニクスでは「がん登録の利活用」における製薬企業の皆様の声を、学会やシンポジウムなどで過去数回発表しています。
参考:

  • 『企業ニーズについて』 
    日本がん登録協議会(JACR) 第30回 学術集会 「がん登録を支える技術」 市民公開講座(特別講演)にて

全国がん登録情報の利活用における課題 ~ がん登録推進法の改正に向けて ~

がん登録データ利用の申出・審査における課題と対応案として以下3点があげられました。

  • 利用申し出から審査、提供までに手間と時間がかかる(事前相談から申し出書類提出までの目安として現在は2か月~3か月)
    • 審議会等を経ずに提供できる情報の新設(年次集計など、法改正)
    • 簡易な審査で対応可能な事項の整理
    • 電子申請の導入
  • 利用者の範囲(私企業、海外等)が不透明
    • 詳細な基準の決定
  • 安全性についての客観的評価が未整備
    • 研究班での検討、安全評価委員会の設置等

参考:実際にデータ利用申請を行った経験をもとに、サイニクスでも以下のような課題をがん登録勉強会・調査会で発表しています。

第4回 がん統計に関する調査・勉強会(2020年12月9日) 「全国がん登録の民間の事例紹介」 サイニクス講演資料より抜粋

希少がんの疫学 都道府県比較

製薬企業からもお問合せの多い希少がんの疫学について発表がありました。杉山裕美先生(放射線影響研究所 疫学部)から、全国がん登録のデータを用いて、RARECAREnet Listの18 Familiesと68のTier 1グループ別での集計結果が発表されました。
様々ながん種を都道府県別に分析した結果、Tier 1グループの一般がんでは地域差が大きいが、希少がんでは地域差が殆どありませんでした。

地域差がみられた希少がんは以下の通り:

  • 胆嚢および肝外胆管では東北地方に多い
  • 悪性中脾腫では大阪、兵庫に多い
  • 肉腫では宮城に多い

一般がんFamilyで特に地域差があったがん種と地域:

  • 食道がん:秋田、高知、新潟、東京、大阪、神奈川
  • 胃・大腸:東北地方
  • 肺・膵臓・腎臓:北海道
  • 肝臓および肝内胆管:西日本
  • 膀胱:青森
  • 子宮頸がん:九州地方に多く、東京、神奈川では少ない
  • 皮膚がん:南日本で多く、北日本で少ない

(注)地域がん登録から2016年に全国がん登録への変更に伴うデータ処理上の誤差の可能性に注意

各がんの分析結果については、近日中に「希少がんデータブック」として公表されるとのことです。日本で初の全国がん登録を用いた希少がんの報告が楽しみです。

編集後記

全国がん登録には様々な限界があり、それだけでは製薬企業が必要なデータの形ではないことも多いですが、他のデータとのリンケージが行われればとても貴重なデータソースとなりえます。そのためにもデータを正しく理解し、利活用が進むことが期待されます。

近年では全国がん登録と各がん学会の症例登録などのリンケージに関する研究も進められていたり、新しい治療法(例:分子標的薬)の影響による生存率やQOLの改善などについて研究も進められています。 全国がん登録協議会では、よりよいデータが集められ活用されることを後押ししている学会ですので、ぜひ皆様も一度のぞいてみてください。